「風の便りに寄れば、この辺りと聞く」
ひゅうひゅうと風が吹く中、ひとつの影が平然と立っていた。凄いのは、それが電柱の上に立っているという事である。人影が動いた瞬間、じゃき、と重い鉄の音がした。
「あのお方のご命令。お前に恨みは無いが、消えてもらおう」
ひらりと、風に写真が舞う。それは次の瞬間、穴が開いていた。
「・・・あいつを、連れ戻す為に」
写真が風の抵抗を失い、地面に音も無く落ちる。その写真には、空猫町立空猫高校の制服を着た、長い黒髪の女が映っていた。
顔の部分に穴が開けてあるから、それが誰かは断定できない。
11 セーラー服と空気銃
「最近、挨拶が良くない。改善策はねえか?」
黄昏。夕日が差し込む空猫高校内生徒会室では、よっつの人影があった。その内のひとつが朗々と良く響く声を張り上げる。
「まず呼びかけるのが1番だと思います。あとは風紀を門につけたらどうですか? 挨拶をしなかった生徒の名前を教えてもらって、リストに載せる。どうですか?」
「ありだな。検討する。意義はねえな、親父?」
親父と呼ばれた男の顔に、夕日が当たる。艶やかなスキンヘッドがきらりと光った。
「お前たちは本当に圧制政治をするな・・・」
呆れた様に呟かれた言葉に、残りの3人は声を上げて笑った。
「それが俺たち、空猫生徒会なんじゃねえのか?」
生徒会室に据えられた、高級そうな木で作られた大きい机。くるりと椅子が翻り、吊り上がった切れ長の目を眼鏡で隠した男の端正な顔が露わになる。男は竹刀を片手で回した。
その瞬間。
眼鏡の男の隣にあるガラスが、勢い良く砕け散った。椅子に座っていた男は目を見開いた。背後から、真さん、と声が聞こえる。真と呼ばれた男は素早く椅子から転げ落ち、受身を取る。一瞬遅れて、ガラスの破片が降り注いだ。
「誰!?」
部屋の影から走り来る影がひとつ。長い黒髪を持つ、強く可憐な少女、千鳥。彼女は勢い良く日向へ飛び出すと、指の間にシャーペンを挟み前方を睨んだ。しかし、驚いた様な表情を浮かべ、足に力を入れて飛び退く。その頬を、何かが掠めた。飛び散る血。
「おい! 大丈夫か、千鳥!」
駆け寄る少年は、金髪跳ねっ毛。青い目で先程の千鳥と同じく前を睨んだ。
その目の前に、降り立つ影。ふわりと、青い髪が波打つ。
「天下の空猫生徒会、「月猫」と聞けば・・・大した事無いな。私の攻撃に気付かぬとは」
青髪の人物は言う。風に翻るのはスカート。どうもセーラー服らしいが、夕日を背に回しているので、顔もどこの学校の者かも分からない。
「・・・てめーだったのか、さっきからの気配は。違和感があったんだ。殺気がねーから攻撃までは分からなかったけどな」
竹刀を構える真。女は腕を構えた。その腕の中を見て、千鳥が叫ぶ。
「真さん! エアガンです!」
真はぎゅっと眉間に皺を寄せた。まだか、まだかと体中が騒ぎ出す。それをどうにか押し留め、真は時間が経つのを待った。あともう少し。しかし次の瞬間、女はエアガンを撃ってきた。それは真を大きく逸れ、千鳥の元へと向かっていった。突然の事に反応できず、固まる千鳥。その時だった。
「ねえ、君、何やってるの?」
来る筈の衝撃が無い事を不思議に思いながら、千鳥はそろそろと目を開けた。上からふわりと声がして、千鳥を優しく支えていたのは、見慣れたきちんと着込まれた学ラン。
「真紅!」
そう言ったのは千鳥では無く、青髪の女。真紅はくるくると手に持っていた分厚い本を回した。本の中央は大きく凹んでいる。それを慣れた目で見やり、真紅は女を睨んだ。
「別に僕は、そこにいる孝鳥が君によって殺されようが平気だし、この学校が崩壊したって気にもしない。ただ」
真紅は千鳥の腰を支えていた腕を千鳥ごと抱き寄せる。
「僕の千鳥に手を出したら、僕は君を殺すよ、杜」
杜と呼ばれた女は黙って、ゆっくりと生徒会室の中に入ってきた。同時に日が沈む。暗闇の中、涼しげな顔立ちと髪と同じ様に特殊な金の眼が見えた。
「・・・それだから、お前のせいで、そいつを殺さねばならないのだ」
真紅は何を言っているのか分からない、といった風に顔を顰める。
「お前が最近、近隣で暴れず、何も取り締まらないせいで征鳥校付近の不良たちが勝手にやり始めた。あいつらの面倒を見るのは真紅、お前の役割だっただろう。しかしお前はそこの千鳥とかいう小娘に気を取られて仕事は愚か稽古さえ疎かになっている。これは由々しき問題だと、保様が私にそいつの抹殺命令を受けた」
「抹殺?」
千鳥を抑え、真紅が進み出る。今までに見た事も無い憎悪の表情を浮かべて。
「君、言葉は慎んだ方が良いよ。僕が剣術の稽古をしていないって? 笑わせないで。ちゃんと毎日やってる。僕の仕事が不良の世話って、確かにあの馬鹿げた塵たちを粛正して纏めるのは僕の役割だけど、普通人間って言う生き物は自立しようと思うんじゃないの? 何で人に頼って生きようとするかな。本当、腹が立つ」
吐き捨てる様にそう言うと、真紅は木刀を構えた。
「いつまで居るの、君。帰ったらあいつに伝えてね。千鳥に接触したら、君の首は飛ぶよ、って」
杜は苦汁を飲んだ様な顔をしていたが、かちゃりとエアガンを下げた。
「分かった・・・今はそうしておこう。しかし、これからの行動によってはどうなるか、それ位はお前も分かるな?」
「勿論。君たちを捻り潰す。僕を誰だと思ってるの? それじゃあ」
真紅が冷たい眼で杜に別れを告げ、ドアの向こうへ消えた。それを見、真は杜に向き直る。
「・・・てめーは、保の傘下の者か」
「いかにも。私は征鳥高校所属、保様の奸臣の杜だ」
肩より少し長い髪と、爛々と輝く金の目。
杜は、そう言い終るや否や、夜の闇に消え去った。
「また征鳥校か」
真は呆れた様に机に突っ伏した。徹が脇で笑う。
「今年は何でこんなにあいつと関わんなきゃいけねーんだか」
「仲直りを、出来る様にじゃないのか?」
「まさか」
笑って、真は空を見た。
「友人だったなんて夢だ。俺とあいつはこの」
また、机に伏す。
「月と太陽ぐれー違う。真反対だ」
「どちらが、太陽かな」
「さーな・・・」
突っ伏したまま、ぴかぴかに磨き上げられた机の表面に映る月を見る。
今は知らない。
ただ、昔は、保は太陽ほどではないけれど、夜道を明るく照らす月で、自分はそれに憧れ続ける星だったと思う。
しかし、今は違う。真の記憶の中には、保よりもずっと明るく優しい光を持つ者の姿があった。星である自分など、近づけば、その明るさに掻き消えてしまう様な。
「真さん」
千鳥が心配そうな顔で、そっと真に近づいた。
「あんな野郎に、言われなくても」
そっと手を上げて、千鳥の柔らかな髪を手で鋤く。千鳥は少し驚いた様な顔で真を見た。
「てめーは俺がちゃんと守ってやる。大丈夫だ」
いつか、太陽の光が弱まってしまった時。
自分が太陽を助けてあげられる星になれるよう。
* 久し振りにシリアス。何か杜が悪いみたいじゃん!(憤慨)
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