空猫町内にある古くからの名門、結城家の鳥籠の中にいる鳥が大声で鳴いた。
「珍しい事ですね、この鳥が鳴くなんて」
使用人の桃乃はそう呟いた。鳥は依然、鳴き続けている。
鳥の名前はハルツグ。千鳥に良く懐いている鶯だった。
13 夕焼け、綴る、想い
棒は空を高く跳び、みょうんと不思議な音を立てて地面に落下した。
それを目の端に見て、溜息をつく。笑いも零れた。
目の前に影が差す。見上げれば、夕日を背にすらりとした少年が立っていた。
「さようなら」
落ち着いた声で、少年は言う。これでいい。目を閉じる。これで、良いんだ。
ひゅう、と耳の隣で風が唸る音を聞いた。
「ほーんと。何にも分かっちゃいねーな、2人とも」
夕日の届かない校舎裏。そよ風に、金髪跳ねっ毛が揺れる。
「何で分かんないかな、お互いの気持ちが」
竜也はつまらなさそうにそう呟くと、大きい溜息を出して、校舎裏から消えた。
「・・・・・・何でだろうね」
ぽつりと呟かれた言葉に、精一杯笑ってみる。
「前も言った通り、これはあたしの我儘なんですよ、真紅さん」
真紅さんは辛そうに黙って、切れ長の目を閉じて、ふう、と息を吐いた。ごめんなさい。あたしって本当、我儘な奴だ。こんなに皆を困らせて、本当に、最低な。
「・・・こいつは生きる価値なんて無いよ」
「そんな事無いって、あたしは思ってますよ」
少し後ろを振り返って、今度は余裕の表情だぜ! って感じで笑う。あたしの後ろにいた、あたしの大大大好きな真さんは、驚いたみたいにこっちを見上げてた。
真紅さんだから、何と無くこんな事しそうだって思った。
あたしの事大事に思ってくれる、優しい真紅さんだから。きっとあたしが泣いた事が分かって、コラ真なにやってんじゃ! って真さんをぼっこんぼこんにしそうな気がして。
でもね、様子を見てて違和感を覚えたんだ。多分、あたしにしか、分からない。
「・・・真さんは、あんな隙だらけの攻撃はしません」
わざとでしょう。きっと真さんは、わざと真紅さんに負けたんだ。あたし、真さんが大好きだから、真さんばっかりいっつも見てるから、解るよ。あんなに真さんは弱くない。
後ろで真さんが少し驚いた様に身を引いたのが分かった。やっぱりそうだったんだ、もう。
「孝鳥、僕相手に手を抜いたのかい?」
真紅さんは凄く怒った。当たり前だよね。真紅さんは強くって、真さんも強くって、今は神聖な決闘の場で、真さんと真紅さんはライバルなんだから。
嫌な予感がしたんだよ。りゅーには本当にごめんって思ってる。あたしはりゅーを押し退けてここまで走ってきた。そうしたら、戦ってるんだもん。吃驚、するよ。ばか。
「ごめんなさい、真紅さん。少し、真さんとお話させて下さい」
真紅さんはやっぱり辛そうな顔のまま、裏門の方へと帰っていった。ごめんなさい。どんなに謝っても謝りきれないよ。
「・・・千鳥」
「ごめんなさい、真さん」
あたし、謝ってばっかだ。酷いなあ。悪い子だ。
「あなたが決めた事なのに、あたしが干渉して、ごめんなさい。でも、でもっ・・・真さんは、死んじゃ駄目です・・・っ」
さっき泣いたのに、また涙が出てくる。格好悪い。
「真さんなんて、莫迦ですよぉ・・・・・・何で負けようなんて思っちゃうんですか・・・? 真さんは、すっげえ強くって頼りになって・・・今のあたし・・・や、りゅーたちの、凄く大事な人なのに・・・・・・」
莫迦だ。莫迦だ莫迦だ、ばか。あたしも真さんも、大ばか者だ。
でも、あたしは真さんが大好きなんだよ。好きで好きで、もうどうしようもないんだよ。真紅さんだって、好きだし、大事だけど、少し違うんだよ。真さんの好きとは、少し違う。りゅーとかスキンとかだって好きだけど、もっと違う。わけ、わかんない。
「・・・真さん、すき、です」
真さんは目を開いた。顔に血がかーっと昇ってきて、慌てて手を振る。
「スキーです! 真紅さんを誘ってスキーに行きましょう! で、あたしと一緒に真紅さんに謝りましょう!」
何言ってんの、あたし! スキーなんて行きたくも何とも無いよ。さっきの何倍もの声を張り上げて真さんに言ったら、真さんはぽかんと口を開けて、それから諦めた様に笑った。
「ああ、そーだな」
それから、千鳥、ごめん、とも。
スキーが好きって聞こえるなんて、俺も相当末期みたいだ。千鳥に見えない様に額に手を当てて息を吐き出した。本当に、最近の俺はおかしい。余裕が無くて、莫迦で、格好悪い。
でも、謝った時に千鳥がもういいですよ、って言ってくれただけで胸が弾む。これ、かなり重症なんじゃねえか。本当に、俺、変だ。
千鳥と一緒に校舎沿いをのんびり歩いていたら、前方から竜也が来た。擦れ違い様、
「俺はあんたと千鳥がくっつく様にしてやりますよ!」
と小声で言って、さっさと行ってしまった。隣で、千鳥が申し訳無さそうな顔をしていた。
「呆れたね」
ぽつりと、真紅はそう呟いた。夕焼けの日に照らされて赤く染まったブランコが、きい、と軋んだ。
「何でああなってお互い好きだって気付かないんだか。僕には理解できないよ」
ふと、空を見上げる。赤い雲が綺麗だった。
「もし向こうがあのまま進展無しなら、必ず僕が頂く」
まあ、進展してても奪い取るけど。
乗り主のいなくなったブランコが、寂しげに呻いた。
「なあ、千鳥」
「はい」
「・・・その、さっきの事・・・」
「すすす、スキーっすか!?」
「いや、それじゃなくて(ってか何でスキーでそんなに動揺すんだ)、お前は本当に、あいつと・・・・・・」
「キス、しましたよ?」
「ぼふッ!?」
「で、でもでもでもっ!!! あたしも、したくてした訳じゃ!」
「・・・・・・本当か?」
「な・・・ッ!! あたしそんなにプレイガールに見えてたんですか!?」
「いや、逆だ」
「・・・・・・・・・」
「よ、良かった」
「はい?」
「いや、何でも無い。良かった」
夕日は、もうそろそろ沈む。
ねえ、真さん。さっきは言い損なったけど、あたしは本当に真さんの事が、
千鳥、言えずじまいだったが、俺はお前の事が、
好きなんだ、よ。
* 真紅だってもりもり出てきますよ! もう、もっさりとね!(←?)
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