空猫生徒会番外編 もしあなたがこのもんをくぐらなかったなら
中学生の頃、親などはもう私を捨てて夜逃げした後だったので私は貧乏だった。その辺りの飲食店で歳を誤魔化し(私は年上に見られる傾向があった)働いた。今でも時々手ごろな職を見つけては働いているが、昔ほど金には困窮していない。
高校生になれば人を狩った。いや、別に食う方の狩りではなく、金銭的な。
その辺りの高校生にエアガンを撃つ。この頃から私の愛用銃は変わらずこのエアガンだ。髪をまとめて帽子に隠し、顔もばれぬようマスクまでかけて。
しかしあの人はただぼうっと空を眺めていたのだ。
「随分物騒なもの持ってんじゃねえか」
私は建物の陰で身を震わせた。その男から私は死角、つまり見えない位置にいるはずである。持っている黒々と光るエアガンをもう一度抱えて、私は男の前に躍り出た。
「止めておけ。てめえになんか倒せねえよ」
どさりと地面で音がして、見れば、顔は私でも見覚えがある、この一角を仕切る男だった。しかし彼はぐったりと動かない。
「お前もこいつと同じ運命を辿りたいのか?」
体中が危険だと叫び、私は首を振った。男はにやりと口角を吊り上げた。
それが、私と保様の出会いだった。
このお方の凄さはあまり知らなかったが、私はこのお方に尽くそうと出会った日思った。カンボジアから帰国したばかりの保様は、まず動かせる駒を捜していた。それに私は真っ先に名乗り出た。保様は街に出た。高校から線路と平行に北に進み、小さな路地を抜けた少しばかり広い場所で保様は足を止める。
「如何なさいましたか」
「気を抜いてるとやられるぞ」
何に、と言おうと思うと、背後から靴音が聞こえた。
「・・・・・・君たち、ここで何してるの? ここは僕の場所なんだけど」
現れたのは、線の細い少年だった。鬱陶しそうな前髪を目元まで垂らし、手には血の付着した木刀を持っている。保様は少しばかり嬉しそうに微笑んだ。
「どうも。今年征鳥校に入学した烏羽真紅だな?」
「・・・そうだけれど。早くどいてくれないかな? 僕はそこで寝たいんだ」
少年は整った顔を歪め、苛々と学生靴の爪先で煉瓦の地面を叩いた。しかし保様は臆することなくまた例の何を考えているのか分からないにやりとした笑みを浮かべた。
「俺たちの団に来い。もちろん待遇はよくしてやる」
「・・・・・・ねえ君正気? 僕が誰かの配下につくなんて、気持ち悪い反吐が出る。帰って」
「もう少しすれば“孝鳥”が来るだろうな」
少年の動きが止まる。
「“孝鳥の真”に?」
「ああ。絶対にあいつはここに来る。戦ってみたくねえのか?」
「・・・ふうん」少年は、木刀をくるくると手で回しながら少しだけ口を尖らせ、
「絶対って言うんなら、孝鳥を倒すまで君たちと一緒に行動してもいいよ。でも配下につくのとは違うからね」
と言うと、くるりと背を向けて歩き去った。
「保様・・・今のは」
「静かなる鬼、烏羽真紅。とりあえず行動を共にするだけでも良いからあいつの力が欲しかった」
保様は満足気に微笑んだ。
「真紅!」
なあに、と細身の少年はうるさそうに顔を歪めた。けれどもその表情が昔より優しく見えるのは気のせいではない。
「またあの少女の所に行っていたのか?」
「そうだけれど。僕は君に行動を制限される権利は無いと思ってたよ。・・・で?」
「ああ。北の方で3班が暴れている。鎮圧してくれ」
「そう」
真紅は素早く夕方の闇に消えた。息を吐く私の隣に保様が来る。
「丸1年か」
「・・・・・・何からです?」
「お前が来てから、だな」
保様、保様。私は光が見えなくて、暗い中で彷徨う事しか出来なくて、いつでも汚れた自分の姿を嘆いておりました。自らの青い髪を呪いました。けれども今、私は保様に会えて本当に良かったと、世界の全てに感謝しております。あなたがこの町に戻ってきてくださって本当に良かった。あなたが、この目の前に聳え立つ門を潜って、この地に、私の隣に来てくださって本当に良かったと私は思うのです。お願い致します。私は蛾なのです。明かりがなければ迷ってしまうのです。その白く汚れのない光で、冷たい淡白な光で、私の道を照らしてくださる事を祈ります。私の側にいつまでもいてくださるよう願います。
* 杜、出会い編です。
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