4 急転直下、鷹の高校
「鷹の高校って・・・隣町、白秋町の、凄く評判悪い所じゃないですか」
「俺に文句を言うな。あの地域に住んでいて、この制服ときたら」
ぱん、とクリアファイルに入れた資料を万年筆で叩く真。
「征鳥高校しか思い浮かばねえ。しょうがないだろ」
「・・・・・・そうですか」
千鳥はファイルを渡してもらう。確かにその写真に映っている少年はあの真紅という少年と一緒の制服を着ていたが、着方が全く違った。真紅はどちらかといえば清楚な感じで、汚れや皺ひとつ無いぴかぴかの制服の袖を通しているのに対して、この写真の少年の着こなしは最低だった。学ランを腰元で結んでいる。しかし、今が真夏な事に思い当たって、千鳥の動きは止まった。もしかして、真と同じ感覚の持ち主なのだろうか。
「あたしを助けてくれた人は、こんな高校に通っていない雰囲気でしたけど」
「さあな。真相は分からねえよ。名前も分かんねえんだろ?」
千鳥は首を縦に振った。本当は、名前は知っている。しかし、何故だか、他人に言う気にはなれなかった。
「無理だな。俺の情報網じゃこいつが限界だ。・・・後はあいつに聞く事だな」
真が指差す先には竜也。彼の情報は他のどれよりも早く確かだ。
「そうですね、検討してみます」
千鳥は、ファイルを抱えたままソファーから立ち上がった。
「・・・征鳥高校、か。全く、この世の神はあくどいものだ」
後ろからする声に、真は会長机のローラーつきの椅子を半回転させて、背後の徹を見た。
既に、校庭は真っ赤に染まっていて、部活に走り回る者たちの姿も無い。
「知ってたのか」
「まあな。お前の事は少なからず耳に入っている」
徹は手に持っていた缶珈琲を飲み干した。真が千鳥の入れた方が美味いだろう、と言うと、徹は確かにそうだが今は千鳥がいないからな、と返した。
彼は、片手の握力だけで硬い缶をへこませながら、今目の前にいるこの凛々しい顔立ちをした息子の様な少年は、千鳥の事を、強ち嫌いではないだろう、と勝手に予想する。真は顔も体つきも大人びていて、高校生には見えない時があった程だが、それでも徹にとっては真は少年だった。
「人を殺すのは、人間にあるまじき思想だぞ」
ぴくりと真の肩が震える。初めて、この部屋がとても静かな事に徹は気がついた。
「・・・それでも」
真の口が、僅かに動く。
「知っていても、必ず、殺意を抱く奴が出てくる。親父にも、いただろ」
「分からないな。私はお前みたいに難しい状況に追い込まれた事が無いから」
徹の笑い声が、痛い程静かな部屋に木霊した。
「・・・・・・そう、か」
「そうだ」
徹は、真の向こう側に、揺らめく夕日を見つめた。
「俺は千鳥と中学校の頃から約5年間一緒にいたし、その実千鳥の性格も癖も思考回路もある程度知っているつもりだった。・・・でもな」
目の前に広がるのは、寂れた門扉。
「どこをどうやったらこの学校に乗り込むって思想に至るんだ副会長!!」
真と千鳥は、白秋町にある私立・征鳥高校の正門前にいた。
「りゅーにお願いするのも難だし、あたし1人で調べてみたら、やっぱりここの生徒さんでした。不良校と言えど、真紅さんの様な方もいらっしゃる訳だし、あたしたちの敵ではありません!」
「お前、だからって敵陣に乗り込むのは・・・! と言うより待て、今何つった? 真紅?」
一瞬、ぴたりと千鳥の動きが止まる。しかし次の瞬間にはいつも通りの顔になっていた。
「違いますよー、全く真さんったら。気温感覚と味覚だけじゃなく耳まで駄目になったんですか?」
「本当の事を言え、千鳥」
真は珍しく千鳥に対して威嚇の表情をして見せた。目を逸らし、俯く千鳥。
「・・・あたしが助けてもらったのは、烏羽真紅さんと名乗っていました」
「そうか」
真は頷くと、肩から斜めに下げていた細長い包みを地面に下ろした。千鳥が見守る中、包みは徐々に解かれ、すらりと長い竹刀が姿を現す。真の愛刀、黒猫だ。
「もうここまで来ちまって、すごすご退散って訳にもいかねーだろ。千鳥、行くぞ」
「は、はい・・・でもどうして、竹刀なんか・・・」
「こっちの事情だ。気にするな」
真は竹刀を右手で握り締めると、重そうな鉄門扉を片手で開けた。軋んだ音がして、静かな門が開く。
「「月猫」の仕事だと思ってかかった方が良い。千鳥、武器は」
「はい。一応」
千鳥が取り出して見せたのは、銀色を基調に、握りの部分が綺麗に彩られたシャーペン。
千鳥は「月猫」の中では唯一飛び道具に特化しており、このシャーペンを駆使して戦う。
真は頷いた。
「よし、行くぞ」
「・・・・・・はい」
駆け出す2人の速度は全速力なのに、物音ひとつしなかった。
しかし、それに気付いてしまうものというのも、この世には存在する。
「・・・来たね、誰か」
ぽつりと、声が聞こえた。
「この校のものじゃない」
「んだテメェらは!?」
「うるせえ、黙れ」
飛び掛ってきた男を竹刀で伸し、真は進む。後ろでは千鳥がシャーペンを遠距離近距離巧みに使用し、追跡してくる者たちを倒して行った。
千鳥のシャーペンにはリボンが括り付けられている。その辺りの女子高校生でも付けていそうだが(とはいえ、千鳥のリボンはシンプルなものしか使っていない)、そのリボンは伸び縮みする。大体、このシャーペンの構造自体が謎に包まれている。
普通のシャーペンとして使用できるくせに、どこか謎のスイッチを押すとシャーペンの両端から棒が伸びてくる。剣道の心構えがあるこのお嬢様は、近距離線ではこれを使う。
胸ポケットから出てくる折り畳み式の弓もある。素早く振る事で畳まれていた弦が伸び、弓として使用できるのだ。勿論矢はシャーペン。
今千鳥は、右手で刀形態、左手で変形後の弓を持ち、後ろに蠢く敵の数を数えていた。
右26度、3m地点に4人。千鳥は指の間に挟んだシャーペンをその地点に投げつけた。手応えを確認すると、リボンを結んだ手を大きく振り、縦横無尽に攻撃した。
「やるな、千鳥」
後ろからの悲鳴を聞いて、真がにやりと笑う。
「真さんには敵いません」
竹刀で次々と倒されていく者たちを見て、千鳥も小さく笑った。
その時。
真の動きが、止まった。
* 長いので続く。
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