真紅が真に決闘を申し込んだ、俗称「征鳥高校の変」の疑問の残る終末から1週間。
いつもと変わらぬ日々の中で、真は微かながら違和感を覚えていた。
ある日の生徒会室。日はすっかり沈み、恐らく真以外に生徒はいないだろう。
彼は黒味の混じった青い携帯電話を片手に、ノートに何かを書き連ねていたが、急に顔を上げた。今は真夏で、窓を開けていないこの部屋の中は駱駝も発狂する程に暑かったが、彼は全く汗を掻いていなかった。携帯電話を両手で抱え込む。
「本当か」
ぽつりと呟かれた真の言葉に、受話器の向うから何か返事が返ってくる。
男はそれを聞き終えると、ご苦労だった、と言い、電話を切った。
椅子を半回転させて、閑散とした校庭を見る。満月で、外も中々明るい。
「・・・あいつが、来た」
真は、忌々しげにそう呟いた。
6 会長の苦悩
「会長と千鳥だけで征鳥校に乗り込んだってホントっスかぁ?」
突然後ろから聞こえた妙に間延びした声に、空猫高校生徒会長玉兎真と副会長結城千鳥はびくりと肩を震わせた。後ろを恐る恐る振り向けば、そこには金髪跳ねっ毛の青い瞳を持つ少年、結城竜也。生徒会の書記と会計を受け持つ。真は数歩下がった。
「お、おう。誰に聞いてそんな事知っている?」
「玉兎センセから」
成る程、と真は額に手をやった。徹にはばれない様にこっそり抜け出してきたのだが、やはり真の伯父は何でもお見通しだったらしい。
「で、どうだったんスか?」
「何がだ?」
竜也は妙にわくわくしている。真が半ば呆れながら聞き返すと、竜也はぐわっと顔を真に近づけた。
「結果っスよ! 大抵俺たちが“鎮圧”した所は、次の日にゃ『驚き! 最強の称号を持つ○○暴走族、謎の全滅! 今はお縄に掛かって警察の元へ』なーんて噂が立つじゃないっスか。それなのに、今回はそんな噂、この俺のウサギの耳をもってしてもひとつも聞かない。・・・実際、何があったんスか?」
真と千鳥は言葉に詰まった。まさか、決闘を申し込まれて負けたなど言える訳が無い。真が普段から士道不覚悟と豪語し、それをしてしまった者たちを罰してきた事である。
ここは、自らが腹を切るしかない。
普通の高校生は思いもつかない考えだが、真は江戸時代辺りの武士を師として崇めていた。
ところが。
「・・・それが、今回は敵対的訪問じゃなかったの。えっとね? りゅー。あたし、この前誘拐されて、その時助けてくれた人が征鳥校の生徒さんだったんだ。で、お礼を言いに言った。でも大丈夫! 征鳥高校の間取りはざっと把握したし、この後乗り込む時は真っ先に頑張れるよ! ね、真さん?」
「・・・・・・は?」
「ねー! 真さん!」
千鳥は笑いながら勢い良く真の腕を抓った。
「い・・・はいそうです!」
真は大声で叫んだ。知らずの内、敬語になった。
「そ・・・そう、なのか? まあ・・・そうか」
と、竜也はしきりに首を傾げながら立ち去った。
「・・・千鳥!」
真は千鳥を睨みつける。心なしか涙目だ。しかし千鳥は憮然とした表情で真を睨み返す。
「これはあたしの我儘です。あたしたちの統率者を失いたくない。だから、自分に罰を下そうなんて考えないで下さい」
「・・・・・・」
真は渋そうな顔で千鳥の綺麗な灰青の瞳を見つめていたが、やがて大きく溜息をついた。
「分かった。礼だけ言っておく。有難うな、千鳥」
「・・・はい!」
予想外の答えに、千鳥は顔を綻ばせた。
真は普段愛用している竹刀、黒猫をしまっている袋の口を、いつでも取り出せる様に緩めに締めておいた。「月猫」仕事時につける黒い布を頭に巻き、顔を隠す。格好も仕事時の黒装束で、生徒会の裏の顔を知らない者が見たら、これが会長の真だとは分からないだろう。そして真は、夕暮れ時を見計らって征鳥高校の前に立った。
「・・・いい加減、決着をつけようじゃねえか」
自然と零れる嘲笑。きい、と音を立てて、真の目の前にある重い門が開かれる。
「久し振りだな、同胞」
懐かしい声に、真は目を伏せた。ふう、と、溜息が漏れる。
「そっちも随分ご無沙汰じゃねえか」
「ああ。予言通り、この町に戻って来た」
門の影から、1人の男が現れた。
年は真と同じ頃。長い、淡白な色をした金髪を後ろで括っている。
「お前が来る所は必ず、ここだと思っていた」
「ここ以外に無いからな。お前こそ、隣町に引っ越したみたいじゃねえか」
真は顔を覆う布を取った。月明かりに、その端正な顔が照らされる。
「決着をつけよう、保」
保と呼ばれた男は顔を顰めた。
「今はその名前じゃないぜ?」
「・・・・・・何だと?」
真は袋の中から、愛刀、黒猫を取り出した。保は楽しそうにそれを見る。
「俺の名前は“詫喪都”だ」
「は?」
真の呆れた声。保・・・いや詫喪都は、声を上げて笑った。
「今の名前はこうだぜ? 同胞。お前は差し詰め・・・“馬姑吐”辺りか?」
「辺りか? じゃねえよこの偽パツキンが。さり気無く俺の名前には貶し文句ばっか入ってるじゃねえか。何だ? 姑って。名前に姑付くってどうだ? そんな奴の身にもなってみろ一生いびり倒しの人生だぞコラそれより酷いのは吐だ何で名前に吐が付いていないといけねーんだよこのカツラとっとと地毛カミングアウトしろや!」
「金髪が地毛だって何回言ったらてめーは理解すんだ! てめーなんて馬に姑に吐で十分だこの甘党が! ほんっと口悪いなてめーは!」
先程までのシリアスな展開は、保・・・詫喪都の発言で掻き消えた。
「そこまでです!」
突如降りかかる、空気を読んでいるのか読んでいないのか良く分からない台詞。
「誰だ!」
悪役らしい詫喪都の言葉。真の隣に、ひとつ影が降り立った。私服だが、その長い黒髪。
「・・・千鳥・・・」
驚きの表情を浮かべる馬姑吐、もとい真。現れた千鳥は詫喪都を睨み、
「地の文さん、“詫喪都”じゃなくて保で結構です!」
と、言い放った。あ、もしかしてそれ、こっちの事?
「生意気な! 俺は詫喪都を貫き通す!」
千鳥が主人公だし言ってる事も筋が通っているので、千鳥の意見を採用。
保が地団太を踏んで悔しがっていると、突如また上から声が聞こえた。
「やあ、千鳥に孝鳥じゃないか。面白そうだね、僕も混ぜてよ」
「あなたは・・・!」
天を仰ぐ千鳥。その澄んだ瞳に映ったのは、きちんと着込まれた学ラン。
「真紅、手を出すな。これは俺たちの戦いだ」
「そう。じゃ、僕は千鳥と一緒にデートでもしてこよっかな」
「「「・・・は?」」」
夜が明けるまで、あと10時間ちょっと!
* 初めてギャグ路線。これよりもっとふざける予定。
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