2 そもそも事の始まりは
並ぶ少年少女の顔つきはどれも頼もしそうに見える。
左端の少年は、柔らかい色の金の跳ねっ毛。青い瞳が印象に残る。
真ん中には、整った顔立ちの、長い黒髪を後ろで括った、大きな灰青の綺麗な瞳の少女。
右端には、凛々しい顔を持つ、ぼさぼさ黒髪、切れ長の目を持つ大人びた男。
彼らは、今回の選挙で見事、生徒会員としての称号を得た。
「君たちは今日から、この学校の顔となり、空猫校の看板を背負う身だ。くれぐれも、軽はずみな行動は行わないように」
「はい!」
3人は、勇ましく返事を返した。体育館から拍手が沸き起こった。
時は変わり、その日の午後、外の札に「生徒会室」と書かれた部屋で。
「真さん、珈琲です」
「ん、すまねぇ」
会長に就任した黒髪の男、玉兎真。彼は、副会長の座に就いた少女、結城千鳥から珈琲を渡してもらい、飲んだ。真と千鳥は幼馴染と近い関係にある。真は、その春から海外へと旅立つ両親とは別に、伯父を頼ってこの町に中学生の頃やって来た。日本の学校に通っていたかったのだ。そしてその中学校で一緒だったのが、千鳥である。真と千鳥の家は隣り合っており、昔から世話見の良い真は千鳥の勉強を手伝ってあげたりと中々よろしい状況を作っていた。故に、千鳥は真に懐いており、淡い恋心すら抱いていたりする。最も、真はその事を知らないのだが。
それを聞いて面白くないのが千鳥の従兄、竜也である。
以前は今千鳥が住んでいる結城本家(余談だが、結城家はかなり名が利いた名門らしい。大昔から続く武士の家系で、千鳥はその宗家。よって剣道を叩き込まれたらしく、有段者である)に共に住んでいたのだが、暫く前に分家の方に、4年間修行へ行った事がある。
帰ってきたのは中学3年の頃。彼はすっかり美しく育った千鳥姫に感激し、同時に彼女の慕う真にあからさまに敵意をぶつけた。今は四民平等、例え宗家と分家であれ、結婚できる筈だぜ! というのが彼の考えである。
それはそうとして。
「・・・で、俺たちに用事って何だ? 親父」
真がぬるめの(千鳥は真が猫舌だという事を知っていた)珈琲が入ったマグカップから口を離し、少し笑いながら扉の方を見た。
「・・・全く、これでも気配を消しているつもりなんだがな」
溜息交じりに影から出て来たのは、生徒会顧問の徹先生。千鳥はにこにこ笑う。
「先生はお体が大きくていらっしゃいますから、すぐに分かってしまうんですよ」
「千鳥にもばれていたのか」
肩を落とす徹に真は向き直った。真が彼を親父と呼ぶのは、彼が真の伯父だからである。真の父代わりといえる存在で、勿論お隣の千鳥とも面識があった。
「当たり前だ。ここにいる奴らは――空猫校最強メンバーだからな」
真はまた少し珈琲を口に含む。またまた蛇足だが、この珈琲は異常な糖度を誇る。
「こっちは解ってんだよ。親父たちが根回しして、俺たちが皆推薦される様にしたんだろ。こんな奴らを掻き集めてやる事といったら、呑気に学校を治める事なんかじゃねえ事くらいは。尤も、圧制政治なら上手いけどな?」
徹は息を吐いた。そして、今度は威厳に満ちた姿で真たちの前に立つ。
「そうだ。真の言う通り、これはただ単に生徒会役員として集めたのではなく、裏の仕事もやって欲しかったからだ」
「それは?」
竜也の問い。徹はそれに余計厳しい顔をした。
「裏に蔓延るものたちの掃除だ」
静まり返る部屋には、校庭の部活の音が大きく聞こえる。
「最近、この辺りの治安は低下している。平和だったこの町も、よくないものに侵されつつある」
徹の声。
「そこでだ。そういう者たちを縛る存在が欲しい。そして選ばれたのがお前たちだ」
「・・・具体的に、何を、するんですか?」
おどおどしているが、きちんと筋の通った声で千鳥は問う。
「少し痛めつける。こちらにも、向こうにも襤褸が出ない様に。幸い、この顔触れだ、やってくれるだろう」
真は手に竹刀を持っている。夏でも冬服を着て、竹刀を片手に暴れるこの生徒は、非常に校則に違反しているものの、教師たちが怖くて手を出せなかった人物だ。
千鳥は頭が切れる。そしてかわいい。生徒会そのものにプラスのイメージをつけておけば、彼らの裏の仕事の内容がばれにくいと考えたのだろう。
竜也は戦闘能力で言えば真と対等だ。彼らが組めば確かに、怖れるものは何も無いだろう。
「頼めるか?」
徹が厳かに言った。真と千鳥と竜也は笑った。同じ様に、悪巧みの笑顔で。
「了解です」
彼らは宣言通り、表向きは圧制恐怖政治を始めた。
真はその権限を最大限に生かし、取り締まる。彼の目の届かない所は竜也がフォロー、最終的に情報が辿り着く先は千鳥と、それぞれ役割を決め、迅速に仕事をこなしていった。
しかし裏は悪を倒す正義の集団「月猫」。
彼らの竹刀の切っ先は、本物の刀より鋭く見えた。
「そういやあ、そんな事もあったな」
真は、いつもの様に生温い珈琲に砂糖をたくさん加えながら、懐かしそうに呟いた。
放課後の生徒会室。千鳥はそうですね、と言って、自分の入れた珈琲を持ったまま、真の座る会長の机のすぐ側にあるソファーに腰を下ろした。
「あれから随分過ぎましたね」
「ああ、良くねえ奴も大分減った」
窓から、校庭で部活をする者の姿が見える。
「・・・でも、無くなっていない」
ぽつりと千鳥が呟いた。真は視線を千鳥にやる。
「あれだけ、あたしたちが叩いているのに、素行をする人はいなくならない」
何故でしょうか、と呟いた千鳥は、小さな手で大きなマグカップを抱えていた。
「変な噂を聞いたんです、りゅーから」
“りゅー”とは竜也の事である。
「隣町から、不良たちがこっちに流れてくる、って」
隣町。そう聞いた瞬間、嫌な予感がした。
「真さん、白秋町の出でしたよね」
両親が海外に行くまで、真が暮らしていた町はここの隣の白秋という。
真はこちらに越してきてから、その町には足を踏み入れない様にしていた。
白秋町。浮かぶ、淡白な色の金髪。
(いつか、また会うかもな? 同胞)
「関係無ければいいが・・・・・・」
夕日に照らされた横顔で、真はそう、呟いた。
しかし、その頃不穏な動きを見せるひとつの影。
「空猫生徒会長玉兎真? ああ、例の“孝鳥”か」
夕焼けも過ぎ、辺りがすっかり暗くなった公園。
「へえ、あいつらを倒したんだ? 凄いね、僕たちの15番幹部なのに」
その中を、真夏なのに変に冷えた風が吹いていった。
* すげえよ、これからふざける筈なのにシリアスでふざけにくいよ。
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