3 副会長誘拐事件
「千鳥遅いなー、俺さっきから頑張って待ってるのに」
不満そうに口を尖らせたのは、空猫高校生徒会書記会計を勤める竜也。千鳥の従兄だ。
彼は今、ドアに飛びつかんばかりの姿で静止している。彼の算段によれば、帰ってきた千鳥がドアを開けた瞬間に飛びつこうというものである。
「莫迦。んな所にいて蹴っ飛ばされても知らねーぞ」
彼に呆れた口調で話しかけたのは、会長の玉兎真。
2人とも、買出しに言った千鳥を待っている。
「しかし、確かに遅いな・・・もういい加減帰ってきてもいい頃だ」
真が壁掛け時計を見ながら呟く。千鳥が出掛けてから既に20分が経っている。
普段なら、この半分程度で帰ってくる筈だ。
「何かあったんじゃ・・・」
「心外だな」
慌てる竜也の言葉に、真は笑う。
「千鳥は仮にもこの空猫生徒会副会長だぞ? 戦闘能力なら、その辺の奴より遥かに強い」
「そっスけど・・・」
俯く竜也。時計の針は、そろそろ千鳥が出てから25分だと示していた。
そこは暗い何かの中だった。
「・・・気がついたか?」
辺りを見回していると、突然声がして、右方向から手が伸びてきた。それを感覚だけを頼りに叩き落とし、千鳥はその方向を見る。顔はわからなかった。
さっき、買出しの時、突然男に声をかけられた。軟派男で、力尽くで何かをしようとしていたので、武道少女の千鳥だ、応戦したが、後ろから何かを嗅がされて、意識を失ってしまった事を記憶している。再び、声がする。
「お前・・・結城家の嫡子なんだってな?」
千鳥の背筋を悪寒が走った。
「代々続く武士の名家だ、女の当主は許されない。だから、婿を待ってるそうじゃねえか」
またこちらに向かって伸びてきた手を叩き落としたと思ったら、別の方向から手が飛んできて、手首を掴まれて壁に押し付けられる。真っ暗で何も見えない。
嫌だ。
「莫大な財産と権力が手に入るんだ、これを逃す男は居ない」
嫌だ。
「俺が、その婿になってやる」
「嫌ッ!」
暴れるものの、千鳥を押さえる手はびくともしない。
「放して! 気持ち悪い・・・っ」
涙が込み上げてきた。足を無茶苦茶に動かす。
「あんたなんかに、結城が、家を渡すとでも思ってるの・・・!?」
「交換条件だよ、頭を使おうぜ?」
よくよく聞けば、この声は先程の軟派男のものではなかったか。
「お前の命と引き換えに、当主になるんだよ。お前が美人で助かったわ、俺の嫁になるんだから」
下劣過ぎて、涙が零れた。精一杯の大声で叫ぶ。
「誰が、あんたなんか、とっ!」
「同感だね」
突然、男たちとは別の声がした。その瞬間、千鳥を拘束していた手が離れる。
「君たちの様な屑は掃き溜めで転がっていれば良いんだよ」
目の前に、さっと光が差した。
ばたんと、大きな音をしてドアが開いた。
「真! 大変だ、千鳥が・・・って何をしているんだ竜也」
突然飛び込んできた徹に、竜也は飛びついてしまった。驚いて竜也を振り払いながら、徹は真を見る。
「どうした、親父」
「千鳥が・・・誘拐されたらしい」
真は、持っていた万年筆を落とした。
「何だと・・・?」
「先程、結城の方に千鳥を預かった、と連絡が在ったらしい」
「千鳥が・・・!?」
竜也は素早く立ち上がると、部屋の外へ飛び出して行った。
「竜也! 待て、竜也!」
「止めといてくれ。竜也はああなったら止まらない」
真はだん、と勢い良く紙の束を机に叩きつけた。
「・・・私などより、ずっとあいつらの事を知っているのだな」
「そうだな」
真は少し笑って、それから、
「俺もちんたらしてられねえ。どこにいるか解らなくても、絶対に見つけ出してやる」
そう呟くや否や、廊下へ駆け出していた。
「え、っと・・・先程は有難う御座いました」
ここはどこだろうか。
千鳥がそう思っていると、大きな橋の欄干に腕をかけ、学ランを着、黒い長い前髪に覆われたつまらなさそうな瞳の少年が、ふと気がついた様に千鳥に缶ジュースを差し出した。
「・・・飲みなよ」
「え、あ、はい、有難う御座います」
少年は千鳥が缶ジュースを受け取ったのを確認すると、また前方へと向き直ってしまった。
千鳥にすれば、驚きの連続である。
急に光が見えたと思ったら、目がひりひりした。どうやらガムテープを張られていたらしい。そして、久しぶりに光を移したその瞳には、ぼろぼろになったたくさんの男たち。
その中央に立っていたこの少年は、千鳥の手を引っ張ると、ここまで連れて来た。
そして今に至る。
帰り道も分からず、かといってこの少年に話しかけるのも躊躇われる中、少年の口が開く。
「・・・君さ、」
「! は、はい」
千鳥が慌てて返事を返すと、少年はくすりと笑った。側を、大型車が通り過ぎて行った。
「そこまで慌てなくても良いんだよ。君、名前は?」
「・・・結城、千鳥です、けど」
「千鳥ね」
少年は笑った。綺麗な顔立ちをしている少年だった。
「あの・・・あなたは?」
「僕かい?」
頷く千鳥。少年は少し迷って、ぽつりと、烏羽真紅、と言った。
「真紅さん、ですか?」
真紅という少年は少し驚いた顔をして、それからまた、笑った。
「そうだよ。・・・僕はもう行こうかな。君は大丈夫だよ、ほら」
真紅が指差す先を見つめると、こちらに向かって駆け寄る真と竜也の姿が見えた。
「それじゃあ、その内また会うと思うけど。それまでね」
そう言うと、真紅は音も無くその場から立ち去ってしまった。後ろから竜也の声。
「千鳥! 白秋町まで・・・大丈夫か?」
「白秋町?」
千鳥は振り返った。今はもう見えないあの少年が、今更になって気になった。
* 真紅を出す事が趣旨。これ、ラブコメになるので。しかもかなりアホな。
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