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オリジナル長編(?)小説を展開しています。
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「明治の板チョコに、豚肉に、ゆず、おかき、甘栗むいちゃいました・・・」
メモを見ながら、すらりとした、長い黒髪の少女が呟く。灰青の澄んだ瞳が綺麗だ。
「あと、葱にあさりにナタデココ! 今日はお鍋だもんねっ、豪勢にしなくちゃ」
それ、鍋の具か。しかしそんな事は気にも留めず、少女はカートを走らせる。
彼女の名前は結城千鳥。この辺りでは名の知れた名家、結城家の宗家の一人娘。彼女は今、家で行う鍋の準備をしている。今日の彼女はいつにも増して張り切っていた。理由は単純、今日は彼女のお隣に住む青年、真が来るからだ。千鳥は彼を慕っており、淡い恋心すら抱いている。そんな千鳥に、声をかける者が1人。
「あの~、千鳥さん、ですか?」
「へ?」

8 からすばあね
 
千鳥が振り返ると、そこには1人の女性。
肩より少し短めの艶やかな金髪を顔の横に流し、赤く小さなピンで留めている。瞳の色は澄んだ翠。ふっくらとした、綺麗な形の唇が、美しく弧を描いている。着ている服は地元の有名校、昴女子高校の制服だ。
とても綺麗な人である。千鳥は少し気圧されたまま、おずおずと頷く。
「・・・そうですけれど・・・?」
「ああ、やっぱり。聞いた通りの人だもの」
女性は、嬉しそうに手を叩いた。
「聞いた?」
千鳥が眉を顰めれば、気がついた様に女性は優しく微笑む。その笑み方に覚えがあった。
「申し遅れました。私の名前は烏羽琴葉――烏羽真紅の姉です」
 
「千鳥が帰ってこない?」
竜也はつまらなさそうに手元のゲーム機のボタンを素早く連打した。ちゅどん、ばん、と機械染みた爆発音がゲーム機のスピーカーから聞こえてくる。
「そっス。鍋の買出しに行ってそのまま。また誘拐じゃねえか、って騒いでたんスけど、さっき千鳥から電話がありまして。“家の前に材料なら置いてあります。あたしはちょっと用が出来たのでもうしばらく帰りません。今日中には帰れます。というより、絶対に夕飯までには帰ります”って」
ふうん、と真は適当に相槌を打った。ふへー、と変な息を吐き出して、竜也はゲーム機を持っていた手を投げ出す。ゲーム画面は、“GAME CLEAR”の字が大々的に映し出されていた。
 
「いいのよ、用事があったんでしょう?」
「いえ、まだ夕方ですので。夕飯までに帰れれば、それで」
駅前のお洒落な喫茶店。千鳥は琴葉と紅茶を飲んでいた。
「そう・・・? 私に気を使わなくても良いのよ?」
琴葉は、白い綺麗な指で、紅茶の入ったティーカップを握る。その人形の様な精緻な指も、どこか真紅と似ていた。
大丈夫ですよ、と笑って返して、千鳥は手元のショートケーキを見た。何で、あの日と同じものにしてしまったんだろう。千鳥の脳裏に過ぎる、白く細い筋張った指、優しい微笑み。そうすると、映画館での事が頭に浮かんだので、千鳥は慌ててその思考を振り払った。
「・・・ごめんなさいね」
ぽつりと、琴葉が呟いた。
「はっ?」
「弟の事です。でも、あの子、真紅は、悪気があった訳じゃないんです。いつも家で話していましたよ、あなたの事。かわいくて、利発で、凄く好きだって。あなたは覚えていないみたいですけど、あなたとあの子、昔会った事があるみたいなんですよ。その時に、良い子だな、って思ったらしくって。・・・今回の事も、弟は、顔には出さないけど少し反省したみたいなんです。食事が喉を通らなくなっているみたいで・・・」
「・・・・・・」
千鳥は、ぼんやりと最後に真紅に会った日、丁度先週の事を思い出していた。
まあ色々あって、知り合った不良校で有名な征鳥高校生の烏羽真紅。隣町の空猫町立空猫高校生徒副会長の千鳥は、ひょんな事からデート紛いの事をする。ここの喫茶店で、お茶を飲んで。あの時は、真紅が笑うと、周りの女子が色めき立った事を千鳥は記憶している。そして、映画館。確か『愛の島流し』とかいう映画だったか。館内で、千鳥は真紅にキリンスリッパをされたのだ。千鳥は本能的に真紅の頬を叩き、映画館を飛び出した。
その事で。
琴葉は言い難そうに、自分の綺麗な指先を見つめた。彼女の手元には、あの日の真紅と同じ、美味しそうなチョコレートケーキがある。
「あの子に、会ってくれないかしら」
琴葉はきりりと顔を上げた。澄んだ翠の瞳が、千鳥を捕らえる。
「・・・難しい、です」
「そうね。当たり前だと思うわ」
綺麗な装飾の施されたティーカップが、琴葉の細い指に弄ばれる。
「本当にごめんなさい。あの子は、昔からひとつの事しか見えない子だったから。でも、もし良かったら、いつでも良いから、あの子に謝る機会を下さい。お願いします」
そこまで言うと、琴葉は皿に残っていたチョコレートケーキの最後の一切れを食べて、会計は私が済ませますから先に失礼します、と、喫茶店を出て行った。
千鳥は、何も言えなかった。暫くぼうっと空気を長めて、そうだ、今日は家で鍋をやるんだった、材料は家の前に置いておいたし、その後連絡も入れたからお手伝いさんたちが作っていてくれるかもしれない、そうしたらお礼を言ってあたしも作ろうお鍋、それで、真さんの隣の席に行けて、一緒にお鍋食べられたら良いな、と思って、席を立った。
 
「今までその辺りの不良さんを倒す事ばかりやってて、いつも返り血とかつけてたこの制服がこんなに綺麗なまま返ってくるなんて思ってもいなかったから、びっくりしたわ」
駅前の喫茶店の下。柔らかい金髪を持った女性は、にこにこ微笑みながら少年に話しかけた。少年は、黒く眺めの髪に隠された目を、むっと細める。
「姉さんは出てこないでよ」
「あら、あなたがあの子と器用に仲直りできるとは思わないけど?」
女性は少しおどけて言った。膨れる少年。
「でも、本当にいい子ね。可愛いし、性格も良い・・・あんな子があなたのお嫁さんになってくれると嬉しいんだけど」
「するよ」
「するよ、じゃないの。まだ仲直りすら出来ていないくせに。あんないい子を困らせるものじゃないわよ、真紅?」
「分かってるよ」
真紅と呼ばれた少年は、膨れたままぼそりと呟いた。
「泣かせたくなんか無いのに、泣かせてしまうんだよ。僕は千鳥が大好きなのに」
 
「真さん、白滝ですよ! ほら長いこれ! すごいですね!」
「長いな。確かにこれ1mくらいあるかも・・・おい、大丈夫か千鳥? 少し落ち着け」
「あちち! え、えへへ、ちょっと熱かったです」
「おら、手見せろ」
「(きゃああ!)ま、真さん・・・!」
「火傷にはなってねえみたいだな。良かったな、ほら、やる」
「真さん、これ、お肉・・・」
「招待してもらったしな。小父さん、小母さん、有難う御座います。これっきりだぞ?」
「あ、有難う御座います、真さん・・・美味しく食べます!」
「ああ、そうしろ」
真の笑顔に千鳥は頬を赤らめる。
ごめんなさい、真紅さん。
あなたの気持ちもとっても嬉しいけれど、あたしはやっぱりこの人が、
大好きみたいです。
 
* ちょっと真さん詰め込み出血大サービス。
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