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オリジナル長編(?)小説を展開しています。
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君は覚えていなくても、僕は確かに覚えてる。
この、桜の木ノ下で。

空猫生徒会番外編 舞い散る中君を見た
 
そこは僕の1番お気に入りの場所だったから、とても腹が立った。
目の前の小さな子供は、嬉しそうにふわふわとした間抜けな優しい顔を上に向けている。
こんな場所に人が来る事自体珍しいのに、まさか子供だなんて。
「君、何してるの」
声を掛けたら、びっくりした様に子供は振り返った。真っ黒な長い髪が靡く。灰青の大きな目がこちらを見つめた。
「さくらを見ているの」
子供は笑った。これは、女の子だな。
「ここは、ぼくの場所なんだけど。君、どいてくれる?」
女の子は残念そうな顔をした。何となく、罪悪感。
「そっか。ごめん」
「いや。・・・もうしばらく、いても、いい、よ」
何故そんな事を言ったのか分からない。ただ、口は勝手に動いた。
女の子は俯いた。
「しばらくって、どれくらい? ね、ずっとここにいても、いい?」
「・・・どうして? 日がしずんだら君は家に帰らなきゃ」
僕は女の子の顔を覗きこむ。女の子は灰青の瞳を辛そうに細める。
「あたし、家を出てきたの」
 
要するに、この女の子は家出なるものをしてきたらしい。
女の子の家は規則が厳しく、女の子が泣き出してしまう程だったらしい(最も、女の子を泣かせる規則とはどういったものなのかは知らないけど)。そんな家に嫌気が差して、遠路はるばる隣町まで逃げて来たと言うのだ。良く見れば、木の根元には大きめの包みが置いてある。食料。女の子は言った。ご飯に困ったら困るから、腐らないご飯を持ってきたの。まあ計画的な家出じゃないか。僕は最初の印象から一変、この女の子に敬意を抱いた。立派な、強い女の子。
女の子はここに居たいと言い出した。僕の家に来れば良いと言ったのに、この桜は自分を守ってくれる気がするから、自分はここに居たい。せめて、今日だけでも。
幸い今日は暖かい日だったから、まあ大丈夫なんじゃないかと思って僕は女の子を残して家に帰った。門を潜れば、大勢の使用人が僕を迎えた。そ知らぬ、いつも通りの飄々とした表情で両親と姉に只今帰りましたと告げ、ご飯を食べ、風呂に帰って、寝た。否、寝ようとした。女の子の事が頭の中を過ぎり、中々寝付けなかった。そうして、夜は更ける。
 
桜の木の下に行ってみると、女の子の姿が見えなかったので、かなり焦った。探し回ったら、気の裏側にできた虚で眠っていた。ほっとして胸を撫で下ろす。その途端、女の子が起きた。
「おはよう」
「お、おはよぅ」
ふにゃふにゃした寝起きの頼りない声に、僕は思わず笑ってしまった。
「そうだ、君、名前は?」
ふと、口から漏れた質問。女の子は吃驚した様にこちらを見た。何故かは分からない。
「・・・人に名前をきくときは、自分が先に名のるものだよ」
不貞腐れた表情で、女の子は言った。そうだったねと女の子の隣に腰掛け、
「ぼくの名前は、からすばしんく」
と、言った。僕自身、この名前嫌いじゃないんだけど。女の子は、少し考えて、
「あたしはゆうき」
とだけ言った。ゆうき? 随分女の子らしくない名前だ。それはとにかく、僕は微笑んだ。
「ふーん、そうか。よろしくね、ゆうき」
「うん、しんく君」
君付けが、何と無くくすぐったかった。今まで「様」付けで呼ばれていたから。
 
ある日当然、ゆうきが消えた。
無論、僕は大層驚いて、桜の木の周りを大捜索した。けれど、見つからなかった。
言い忘れていたけれど、桜の木は町が良く見える丘の上にある。ここから見たら分かるかもしれないと無茶な考えを抱き、僕は桜の木に登った。すると、
「しんく君! 助けて、降りられなくなっちゃった!」
と、綺麗な高い声が上から聞こえてきて、僕は大仰に溜息を吐いた。
ここの見晴らしが良かったから、とゆうきは言う。もっと上に行ったらもっと綺麗なんじゃないかって。確かに木に登れば、そこからの景色は絶景だ。ただ、無茶して高く上ったゆうきが莫迦だった。ゆうきを下に降ろした瞬間、体の奥から熱いものが込み上げてきた。
「ぶじでよかった」
ぽつりと僕が漏らした言葉に、ゆうきは驚いた。
 
また、ゆうきが消えた。
僕も今回はさして驚きもしなく、悠長に探し始めた。
しかし、見つからない。流石の僕にも焦りが生まれる。ゆうき、と声を張り上げながら探した。朝ここに来たのに、もう日は傾き始めてる。と、その時だった。
桜の木の根元からは、この町の様子が良く分かる。その中に、僕の家の前に、人だかりができていた。本当は彼らに近づくだけでも嫌だけど(僕は下卑た人間の群れが大嫌いだ)、とりあえず近寄ってみる。人の群れは、ざわざわと騒いでいた。
「どうしたの。ぼくの家の前でなんのさわぎ?」
「真紅様」
近くにいた使用人を捕まえる。使用人は困った様に笑った。
「真紅様と同じ古くからの名門、結城家があちらにおりますよ。隣町の家なのに、何故ここに居るのでしょうね」
使用人の隣を駆け出す。僕の体はまだ小さかったから、大人たちの間を簡単に通り抜ける事が出来た。そうだ。僕もまだ子供なのだ。
「一族の恥だ!」
突然の怒号に眉を顰める。不快な声だ。しかし、次の言葉を聞いて僕の動きは止まった。
「ごめんなさい、おじいさま・・・!」
必死な声。高くて、綺麗な声。嗚咽交じりだけど、ゆうきの声、だった。
その時、僕は瞬時に理解した。ゆうきというのは結城家、「結城」の事だったのだ。
そのまま、泣く“ゆうき”を彼女の祖父と思われる男は連れて行った。
僕の元には、醜い見物人たちだけが残された。
桜が、舞っていた。
 
君にとってはほんの一瞬の出来事だったのかもしれないけれど、僕からすればあの時間は世界の全てみたいなものだった。今だって、きっとこの世界の何割かは君と過ごしたあの世界が混じっている。あの日の面影を追い求める内に、何故か桜が嫌いになった。僕の好き嫌いは激しいから、ピンク色のものは全て嫌いになった。とにかく、もう僕はあの時からすっかり大きくなって、知識も増えたし、強くなったんだ。
そんなある日に、君を見た。
買い物籠をぶら下げて、長い黒髪を揺らして、大きな灰青の目で。記憶に残る君よりもずっとずっと美しくなった君はそこにいた。隣町まで歩いて正解だったよ。
呼び止めて、名前を聞こう。きっと向こうは僕の事忘れているだろうけど。いや、もしかしたら、覚えているかもしれない。しんく君、って言ってくれるかもしれない。もしそうだったら、僕は、どんなに幸せか。
色褪せかけたこの世界に、急に色が戻ってきて、僕は目がくらくらする。
でもきっと大丈夫。すぐ慣れる。もっと色付いた世界にも行ける。ピンクにだって。
僕はそう思いながら、君に向けて歩き出した。
春舞い散る。桃色に埋もれた中、続く道の先に、君は居る。
 
* 真紅との出会い編。でも、この後すぐ千鳥ちゃんは誘拐されるんじゃ・・・(おうい!)
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