「その・・・何て言うかだな、あの時はそのー・・・なりゆき? みたいな。・・・不可抗力?」
「それ強ち嘘じゃないね。僕たちにはどうにも出来なかった事だ。重力、みたいなもの?」
「言い訳臭いの止めて頂けますかご両人」
16 喧嘩の前と後にあること
空猫町立空猫高校校舎内生徒会室。
はあ、と真と真紅は同時に溜息をついた。そしてお互い睨み合う。その向かいでは、千鳥が常に持ち歩いているブラックリストに何か書き込んでいた。2人には目もくれず。
事の始まりはつい先日。謎の「はだかんぼ」とやらに襲撃された真と真紅は推定5歳児の姿へと変貌してしまい、姉さんに騒がれたくないから僕は千鳥の家に泊まっても良い? んだコラじゃあ俺も泊まるー などという会話の後、いろいろあって・・・千鳥の両親にこってり絞られた真と真紅、そして未だ剥れたままの千鳥。2人はまた同時に溜息を零した。
「千鳥! 僕たちは被害者だよ。元はと言えばあかんb・・・はだかんぼが悪いんだ!」
どこまでも「はだかんぼ」の存在をプッシュし続ける真紅。真がきっと真紅を睨む。
「大体てめーが悪いんだよ! てめーらがうちの生徒会室に乗り込んで来やがるから!」
「僕に歯向かうなんていい度胸だね。上等」
2人が牙を剥き出してぐるぐると間合いを取っている。真紅の肘が生徒会長用の机に当たった瞬間、ばん! と力強く机が叩かれた。
「いいですか、2人とも。暫くあたしの側に近寄らないで下さい」
珍しくどす黒さが丸出しの千鳥の声に、真と真紅は頷く事しか出来なかった。
「スキンせんせー! 資料整理完了致しました!」
いつも通りのぱっと弾けんばかりの笑顔を見せ、千鳥は生徒会室から出て行った。
「はー・・・確かにあれはやばいよなよく俺たち訴えられなかったと思う」
「本当君なんて顔でもう訴訟ものなのにあんな猥褻物陳列許される罪じゃないねこの変態」
「お前ほんと悪口のオンパレードだなとうよりお前自分で自分の首絞めてるの気付いてる? お前も陳列罪な猥褻物の」
「僕のは君のより数倍美しい。まるで美術品の様に」
「ええええええええ何この子」
それより! と真は勢い良く顔を上げた。訝しげに片眉を上げて真紅は真を見つめる。以前よりも表情が増えたなあと真はぼんやり思った。
「今は千鳥の信頼をどうしたら取り戻せるか。それに尽きるだろ」
「・・・まあね。なるほど孝鳥も時々はまともな事を言うじゃないか。少し見直したよ」
「どうも。じゃ、どうすれば良いと思う?」
「そうだね。僕は別として差し詰め君は爆走中のトラックの前に躍り出て微妙に後ずさりしながら『俺は死にませーん!』とでも叫んでおくのが妥当じゃないかな」
「プロポーズかよそして微妙に後ずさりとかカッコ悪ッ!!」
手近にあった書類をすぱーんと豪快に机に叩きつけ、真は窓の外を見た。太陽が見えた。
自分は太陽を救える星になると誓ったのではなかったか。悔しくて、真は唇を噛み締めた。
「千鳥ちゃん!」
帰り道の途中、声をかけられて千鳥は振り向いた。こちらに走ってくるのは柔らかな金髪、緑の制服。千鳥の顔が驚きの色を浮かべる。
「琴葉さん」
「千鳥ちゃん、本当に御免ね、誤りきれないわ。ねえ、あの御莫迦を見なかった?」
「・・・・・・お莫迦って?」
「真紅よ。あの子の莫迦! 本当に先日は御免なさい、すぐ捕まえて謝らせるから」
琴葉は怒った様に(現に怒っているのだが)小さく地団太を踏んだ。そこでやっと、彼女の怒りの意味を理解する。
「あっ、や、良いんですよ」
「千鳥ちゃん、優しくしちゃ駄目。真紅は昔から跡継ぎとして親に大事にされて育ってきたから我儘なの。でもこれは烏羽家の一員として、次期当主として有るまじき行為だわ」
背筋を伸ばして立つ琴葉の姿はとても美しく、舞い散る紅葉に良く似合っていた。それを見て、この人は本当に誇りある一族なのだと千鳥は思う。そして、真紅も。
「ちょっと待っててね、必ずあの子を連れて来るから」
「その必要は要らないよ、姉さん」
さぁっと涼しい風が吹いて、半袖のワイシャツから出ている千鳥の腕の体温を奪っていく。
千鳥の澄んだ灰青の瞳には、呆れた様な、怒った様な、そして少し笑った様な琴葉の顔と、並んで立つ、空猫校と征鳥校の制服を身に纏った黒髪の少年が2人いた。
「・・・・・・千鳥・・・・・・・・・悪ィ」
先にこちらに歩み出して来たのは、真だった。
「その、だな、いくら成り行き上だからって、な、いろいろと・・・陳列罪とか、やばいよな? だから、ごめん」
「・・・真さん・・・・・・」
「千鳥」
真の隣に立った真紅。琴葉はその整った眉の間に少しだけ皺を寄せた。
「僕が悪いんだ。僕がはだかんぼを連れて孝鳥の元へ行ったから・・・本当ははだかんぼに孝鳥を殺して貰おうと思ったんだけど、ごめんね、それが後に全ての元凶になったんだ」
「・・・真紅さん・・・・・・」
「(待てよ。そんな事俺始めて聞いたぞ)」
1人釈然としない真。知ってか知らずか、真紅は微笑んだ。
「ごめん。だから、これからも仲良くしてくれるかい?」
「・・・・・・」
黙り込んでいた千鳥は、漸く顔を上げる。
「思えば・・・ですよ、まあ・・・ああなってしまったのはまあ、結果的に事故だった、わけ、だし・・・確かに不可抗力、かも知れません、よ、でも」
「「ごめん」」
真と真紅は同時に口を開き、驚いて互いを見た。千鳥は口元を押さえ、ぷっ、と噴き出す。
「・・・あははっ」
2人と琴葉は千鳥を見た。千鳥は軽く屈み、小さく肩を震わせている。
「ふたりとも・・・ははっ、おかしいの」
「千鳥・・・・・・」
「真さんっ、真紅さん、今までのご無礼大変失礼致しました!」
真紅の声を遮り、ぴしりと千鳥は敬礼をする。そしてにっこりと笑い、
「これからも宜しくお願い致します」
と、笑った。
「「・・・有難う」」
真たちはまた一緒に口を開き、それに千鳥は再び笑い声を漏らすのだった。
「千鳥ちゃん、有難う」
千鳥は振り向いた。もう既に日は沈み終わっており、道のあちこちにちらほらと明かりが点っている。真と真紅はそれぞれここから立ち去った後で、元々人通りの少ないこの道には千鳥と琴葉しかいなかった。
「本当に御莫迦な弟で御免なさい。でも、あの子を許してくれて、本当に嬉しかった」
「いえ、あたしも少し怒り過ぎましたよね。不慮の事故なのに」
「・・・本当にありがとう。私、千鳥ちゃんのそういう所が凄く好き。真紅のお嫁に来て欲しいわ。そうしたらあの子も少しはまともになると思うんだけど」
「いえっ、恐れ多き!」
ぱっと姿勢を正す千鳥を見て、琴葉は小さく笑みを零した。
舞い散る紅葉は、夏の終わりと冬の始まりを告げる葉書。もうすぐ、この町に初雪が降るのだろう。琴葉はふと携帯電話の液晶画面を思い出した。この出来事の発端が起こったあの日に、自分の弟が送ってきたメールの内容。短い文章。
――今日は千鳥の家に泊まる。変な事はしないから心配しないでよ。恥ずかしいから。
琴葉と千鳥は空を見上げた。ひらひら舞い散る紅葉だけが動きを持っていた。
* スプレッド後日話。真紅が変人でごめんなさい。
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