「真さん、何かに吹っ切れたみたいで、剣に迷いが見えなくなったんです」
嬉しそうにお玉を振り回す千鳥を見て、桃乃は微笑む。
この前、ハルツグが鳴いたのは、きっとこの子の心の声を聞いたからだったんでしょうね。
「あ、桃乃さん、明日はお弁当を作りたいんで、食材を取っといてくれると助かります」
「お弁当? 明日学校はお休みでは?」
「いえ。剣道大会があるんです」
14 第26回空猫剣道大会!
「まっことさーん! ファイトですよー!」
後ろから聞こえる声に、真は顔が赤らむのを感じながらも片手を挙げた。
同時に、会場が色めき立つのも分かる。
「おい、あの子、すっげーかわいくねーか?」
「だな。こんな所で、思いも寄らない掘り出し物だぜ」
誰がてめーらなんかに渡すかよ。真は騒ぐ男たちをねめつけた。途端に静まり返る会場。
「凄い、真さんの気迫にみんな押されてる! さっすが真さん!」
「まあ、気迫と言えば違いはしないが・・・」
にこにこ笑う千鳥の横で苦笑する徹。
ここは空猫町体育館。剣道大会の会場である。先程準備時間が終わり、次からはいよいよ試合だ。空猫高校剣道部マネージャーである千鳥は選抜に選ばれなかった他の部員や実は剣道部顧問でもある徹と共に、観客席から剣道着姿の選抜を見つめていた。
「初戦の相手は長ったらしい名前が特徴の狗茂歩毛羽棒荷当樽校ですよ!」
「まあ、真たちの敵では無かろうに」
~真たちが狗茂歩毛羽棒荷当樽校をめっためたにしました~
「次は・・・七言絶句校ですね」
「古文に力を入れているらしいな」
~真たちが七言絶句校を撃破しました~
「準決勝の相手校は難蚊津余素鵜校です!」
「おお・・・何か強そうだな。しかし恐れるに足りんだろう。なんせ空猫校は実戦型だからな」
~真たちが難蚊津余素鵜校を瞬殺しました~
「スキン先生、次はいよいよ決勝ですよ! 相手校は・・・、・・・・・・」
「どうした?」
「私立、征鳥、高校、です」
「すいまっせーん、どうして隣町の高校が出場してんですかーそして木刀なんですかー」
「僕が出たかったからだよ。そうだよね、審判?」
「ひ、ヒィッ・・・!! はいッそうですッ!!」
「おうい審判の顔が恐怖で引き攣ってるぞ烏羽真紅」
「恐怖? 尊敬と畏怖の間違いじゃないかな玉兎真もとい孝鳥」
真は真紅を睨んだ。真紅も笑顔で見つめ返す。
「そ・・・・・・それでは試合を開始させて頂きましても宜しいでしょうか?」
「ああ、いいよ」
審判が恐る恐る笛を唇に当てる。真は真紅を睨み続けながらも、口を開いた。
「烏羽真紅、スキーに行こう!」
「は?」
笛の音より大きな声で、真はそう叫んだ。真紅の気の抜けた声も会場に響き渡る。
「本当に言うなんて・・・・・・」
千鳥は項垂れた。以前、千鳥は自分の発言の取り消しに、「真紅さんをスキーに誘いましょう!」と言った事がある。まさか、本当に真がそれを実行するとは思わずに。
「何、君? 気持ち悪いんだけど。何で君と一緒にスキー? ちょっと秋が顔を見せてきて涼しくなったとは言えまだ夏だよ? 半年後の予定今ここで僕に話さないで? というよりもう一生僕に話しかけないで汚らわしい千鳥と一緒ならともかく」
「千鳥も一緒だ!」
剣道面の中から真が叫ぶと、真紅の体が少し揺れた。
「千鳥も・・・? という事はくじ引きで千鳥と同じ部屋になったり温泉に入ったら実は混浴だったり王様ゲームで色々な事千鳥に命令できたり(※真紅は天の道を行き総てを司りたいお年頃なので自分が命令されるなんて欠片も思っていません)・・・何だって!?」
良く分からないがショックを受けたらしい。ちなみに、前半は真にしか聞こえない程小声だったので、肝心の千鳥が聞き取れたのは「何だって!?」の部分だけだった。
しかしその時、真紅の耳元で風の唸りが聞こえた。
気付いた時には、遅かった。
「まさか孝鳥に負けるなんてね・・・」
「いっつも勝ってるだろーが。たまには勝たせろ」
「卑怯な勝ち方だけどね?」
「・・・・・・うっせえ」
真は恥ずかしげにそっぽを向いた。それを見て真紅がくすくすと男らしくない笑い方で笑う。真に対しては始めて見せる、あの、優しい表情だった。
「こうでもしないと、僕に勝てないと思った?」
「うーるーせーえー! てめーが勝手に創造膨らましてぼーっとしてただけだろ」
「そうだね。あれは不覚だった」
真紅は壁に凭れたまま上を見上げる。高い位置にある窓から、太い金網で切り刻まれた空が見えた。
「ねえ孝鳥、僕は千鳥が大好きなんだ」
「知ってる」
ぶすっとした表情のまま真が答えた。それにまた真紅は笑みを零す。
「僕はね、昔から自分より下のかわいそうなものが好きなんだ」
真紅の整った横顔に目をやる真。
「僕は破壊が大好きだから、自分で壊したものとかを見て、何て格好悪いんだろう、でも綺麗だね、破壊されたものは美しいねって言ってきたんだ。本当にその通りで、僕が壊したもの、僕じゃないものが壊したもの、無理矢理壊されたものには途轍もない美しさと愛情を感じていたんだ。破壊こそ美学。だからこそ、君の命を奪おうとした。・・・でも」
「千鳥か?」
真紅は嬉しそうに、しかしどこか切なげに頷いた。
「千鳥は酷いね。破壊こそ全て、破壊だけに生きる筈の僕の道を一瞬で捻じ曲げてしまうんだから。本当に酷い。なのにあんなに素敵なんだ。全く、酷い。酷いよ、千鳥は」
木刀が、真紅の手を離れ、空中でくるくると回転した。そしてまた真紅の元へ。
「かわいそうなものを、僕より下のものを愛でたって誰も文句は言わない。だけど、千鳥は僕より上なんだ。僕が破壊できないものなんだ。でも僕は千鳥が好きなんだ。いや、今までの僕には手が届かないものなのだろうから好きなんだ」
布の擦れる音がして、真紅が立ち上がるのが真の目に見えた。真紅は袴の膝を叩き、木刀をぱしっと手で叩いた。
「ほら、千鳥が来たよ。じゃあね」
「あっ、おい・・・・・・」
「それと」
真紅は整った顔で少し笑う。
「スキー、本当に千鳥が来るんなら、僕も行くよ」
「いたいた、真さん、探しましたよ? 優勝おめでとうパーティーやりますよ!」
千鳥の笑顔を見ながら、真は少し切なげに微笑む事しか出来なかった。
* もっさりんぐいんしんく! でもやっぱりまこっさんってすてきだ!
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1992/08/08
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