17 舞い上がれブルーシャークス!
「よっしゃー! 連勝目指して頑張りますよー! あたしは100m走、真さんは借り物競争、りゅーは障害物競走、スキン先生はハゲっ!」
「私を入れる意味があったのか・・・?」
スキン先生は我が生徒会の顧問ですからそりゃあもう含めないといかんでしょう!
それはさておき、地の文さんに代わってこの場の解説を致しますと、今は空猫町立空猫高校の体育祭開会式前です。いやあこの日のために結構特訓しましたよ! あたしたちのチーム、その名は青組ブルーシャークス! そんなこんなで、退く訳には行かない戦いが今、始まろうとしているのです。
・・・などという解説を千鳥が繰り広げている間に開会式や始めの大玉転がしの種目は過ぎ、障害物競走の番となった。尻に付いた砂を払いながら、竜也が立ち上がる。
「いっけー! りゅーやー!」
「おうっ! 任せとけ!」
竜也は爽やかに笑った。手を大きく振っている千鳥も笑い返す。スタート位置から、銃声と共に竜也は駆け出した。
「哀れな奴らだな。空猫校1の俊足を敵に回すとは」
「ええ。でもやっぱりりゅーは凄いです」
凄まじい速さで突き進む竜也の背を見ながら、千鳥は切なげに微笑む。
それを見て、真はふと彼の少し不貞腐れたような、投げやりな声を思い出した。
――俺はあんたと千鳥がくっつく様にしてやりますよ!
彼はその答えと引き換えに、何を求めようとしたのだろうか?
「あ、真さん、次出番ですよ」
真は顔を上げた。彼の背後では100m走を終えた者たちが退場している。次のプログラムは障害物競争。真の出場種目だった。
「真さん、頑張ってきて下さいね!」
「おう」
千鳥に笑って見せて、真たち選手はトラックの中に入場する。しかしその途端、アナウンスが響いた。心なし震えているかのような声だ。
『えー、皆様、本日はお客様がいらっしゃいました。そ、それでは、どうぞ』
黒い影が、太陽の光が降り注ぐ校庭に舞い降りた。
「やあ、千鳥に孝鳥。久し振りだね、元気だったかい?」
「真紅さん!」
真紅と呼ばれた少年はその人形の様に端正な顔を少し傾け、千鳥たちに向かって歩み寄った。反射的に真は背後に千鳥を庇う。
「お前の名前は俺の千鳥が作った名簿には載ってなかったが?」
「そうだね、今ここで僕が君と戦いたいと思っただけだから。それより千鳥は君の物じゃなかったと思うんだけど。違ったかな?」
真は眉間に皺を寄せた。楽しそうに笑う真紅。
「まあ孝鳥、落ち着かないと。折角のこの舞台を無駄にするなんてそんな惜しい事、しないよね? ――君の出るこの障害物競争で白黒はっきりさせてみようじゃないか」
クラウチングスタートといわれるものをご存知であろうか。
腰を高く上げながら、真は前方を見る代わりに横目で隣を見た。そこには、長めの髪を重力のまま垂らした、人形の様に端正な少年の姿。
ばぁん、とピストルが鳴った。
真と真紅は寸分違わぬ速度で走り出す。高々と聳え立つハードルを真は足に力を込めて飛んだ。しかし、その後ろから真紅が何食わぬ顔でハードルの下を潜る。
「飛べよ。もしかしてそんな脚力も無いってか? 坊ちゃまは大変だな」
「有難う。僕は坊ちゃまだからそんな猿の様な野蛮な事はしないんだよ」
真と真紅の間に火花が散る。ちなみに2人ともトップ。
次の障害はスプーンの上に玉を載せて運ぶものだ。あまり器用ではない方の真は慎重にスプーンを持つ。ところが真紅は柔らかくスプーンを持つとすたすたと歩き去ってしまった。
「なっ・・・!!」
「甘かったね、孝鳥。それじゃあ」
にこりと笑って、進みだす真紅。真は歯を食い縛り、玉を空高く投げた。そして全力疾走。
「っざっけんな! てめーなんぞに負けてたまるかよ!」
次の障害物への1歩手前で、真は見事、スプーンの中に玉を収めた。千鳥のすごいですまことさん! という歓声にほんの少し頬を緩ませ、スピードを緩めず突き進む。
「荒くたいねぇ、君って・・・もう少し美しく出来ないのかい?」
真紅は溜息をついて、からりとスプーンを地面に放った。次の障害を見上げて、また溜息。「訂正するよ。この学校の障害物競争って美しくない」
そう言い捨てると、真紅は勢い良くアンパンに齧りついた。
「おふはほんほうはふっふりはへはひんはへほ・・・」
訳すれば、「僕は本当はゆっくり食べたいんだけど」だそうだ。その隣で真は素早くアンパンを咀嚼する。しかし真紅も負けじと喉に押し込み、2人同時に再び駆け出した。
「孝鳥、なかなかやるじゃないか。僕と等しい速度だなんて」
「てめーこそ。貧弱そうな体なのによく俺についてこれるな」
「でもどうしよう? これじゃあ決着が付かないよ。だから転んで」
「お前が転んで」
「僕バナナの皮持ってるんだ? ほーらほーらこけたいでしょー」
「・・・お前、本当に烏羽真紅か・・・・・・?」
目前に迫ったゴール目指して、2人は加速をかけた。
そして――
「凄いですねー、お2人とも! 同1着だなんて、流石です」
千鳥はにこにこ笑いながら、真と真紅にタオルを手渡した。微笑んで礼を言う真紅と真。その姿に幾人かの女生徒が倒れてしまったのは別として。真紅は真を振り返る。
「孝鳥、君、次に出るものは?」
「・・・協賛、二人三脚」
「わあ」
無感動に真紅は手を叩く。
「僕は出な「真さんと真紅さんが組んだら天下無敵ですよ!」
真紅の言葉を遮り、きらきらと瞳を輝かせる千鳥。真と真紅は互いに疲れきった顔でお互いを見て、溜息を付いた。
「へー、あれが烏羽真紅か。まあ整った顔してるんじゃねーの?」
千鳥たちを見下ろす澄んだ水色の目。踵を返すと、頭に巻いてあった青い鉢巻が靡いた。
「・・・参ったな、あいつに入ってこられると随分ややこしくなる。まあどっちにしろ、会長にはあいつの目の前で正々堂々やってもらわにゃあ」
くるりと毛先で丸まった金髪を指で伸ばして、竜也は不敵に笑う。
ばたばたと旗に大きく描かれた青い鮫が、大空に溶け込みながら泳ぐ。鮫の姿は獰猛で荒々しく、不恰好だった。この日のために真が頑張って作り上げたものだ。
竜也はその旗に1発パンチを決めて、鉢巻を翻しながらグラウンドへ戻った。
「おーい、ちょっと変更点があるんだ」
係の生徒に声をかけて、竜也は1枚のカードと折り畳んだ紙を渡す。
生徒が走り去ったのを見送った竜也は頭の後ろで腕を組んでぶらぶらとグラウンドの隅へ消えた。
* 続く。ちょっとこのお話長くなります。
PR
この記事へコメント
- カレンダー
12 | 2025/01 | 02 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | |||
5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 |
12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 |
19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 |
26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
- 最新記事
(11/25)
(09/17)
(08/11)
(08/11)
(08/11)
- プロフィール
HN:
うぐいす
年齢:
32
性別:
女性
誕生日:
1992/08/08
職業:
ノートにガリガリすること
趣味:
小説を書くこと
自己紹介:
小説に特化したブログを作ってみました。
- ブログ内検索
- 最古記事
Copyright © 鷹の止まり木 All Rights Reserved.